■エッセイ20…長崎新聞2004年11月3日付「うず潮」掲載

| 「月の模様」 ヤマサキユズル 月の美術館に来られたドイツの方のお話では、月の中には砂をまく男が住んでいるそうです。月の模様について調べてみるとドイツ・オランダ・デンマークでは悪行の報いとして月に閉じ込められた男の姿に見えるそうです。 月には「陸」と呼ばれる明るい部分と「海」と呼ばれる暗い部分があります。この明暗の模様が日本や韓国では餅をつくウサギに見えるといわれますが、中国ではウサギは薬をついているといわれます。中国の有名なお話では、月の異名でもある女神の嫦娥(じょうが)が、夫の不老不死の薬を盗み出し月に逃げ去り、その報いから蟾蜍(せんじょ)というヒキガエルに変身したそうです。ほかにも桂の木とうさぎ、大きなハサミを持つカニ、さびしい天女にも見えるそうです。 モンゴルでは尊敬される犬で、うそをつくと月の犬が吠えるといわれるそうです。アメリカでは女性の横顔。ヨーロッパでは木につながれたロバ、キャベツ畑の泥棒、ローマ神話では本を読む人。オーストリアでは灯をつけたり消したりしている男の人。そのほかにもたくさんの見え方があります。 最近読んで心に残ったのは、インドのウサギ、サル、キツネのお話です。前世の罪の償いにと、よぼよぼの老人のためにサルは木の実などを集め、キツネは小鳥や魚を採って食べさせました。何もできないウサギは自らを焼いて食べてくださいといって死んでしまいます。老人は実は帝釈天で、黒焦げになった心優しいウサギを抱いて天にのぼり月の宮に祀りました。その姿が月の黒い模様だそうです。なんだか月の模様から人の心の醜さや優しさが見えてきました。 月を見つめてはいけないともいわれます。北シベリアのヤクート族の伝説では、水くみの途中でじっと月を見てしまったために連れ去られた二人の兄と妹の姿が見えるそうです。日本でも「竹取物語」には「月の顔見ることは忌むこと」とあります。月にはそれだけ不思議な力があるようですね。(「月の美術館」館長、長崎市) |