
『vanilla』 21×30cm
3年以上の制作期間の間にかなり変化しましたが
キミカさんの「vanilla」のイメージを元に生まれた作品です
| 『vanilla』 by Kimica 「この街で雪は望めないよ」 長いマフラーの先がふたつ、冷たい風に揺れていた。 色は赤。 黒いジャケットの光沢に反発する様な、真赤な赤。 空は、夏の色を少し薄めた様な、色褪せた青をしていた。 快晴なんて、冬には望めない。 それが私が生まれた場所だった。 ここは違う。 快晴の乾いた空気が、冬。 だから人も湿っていない。 「あんた何処の人?」 しゃがみ込んだまま顔すら上げない私を見下ろして、赤いマフラーは呟いた。 質問の割にはひとり言だ。 私は少し顔を上げた。 視界に赤と黒と青と、茶色。 金色に近い、茶色い髪が見える。 「聴いてんの?」 強い風の中で振り向いて、髪が大きく揺れた。 あ。 煙草の匂い。 「北だよ。ずっとずっと北」 「へぇ……」 ひとり言の返事を呟く。 長い腕を一杯に使ってサングラスをとった。 見られない様に視線を落とす。 赤いマフラーの黒いブーツを中心に、煙草の吸殻が散らばっていた。 「誰か待ってるの?」 「別に」 服の擦れる音。 新しい煙草を取り出す。 ジッポの金属音。 一瞬の焦げた様な匂い。 煙草の、煙。 「私光に弱いんだよね」 赤いマフラーのひとり言。 「空が眩しいとくらくらして、何?色んなこと想い出す」 ああ。 なんとなく、わかる。 「曇った日が好きなのに、冬はずっと晴れなんだ」 こっちではありえないな。 「一年中くらくらする」 子守唄みたいな声……。 「聴いてる?……聴いてないか」 顔を上げる。 赤いマフラーの先がふたつ、乾いた地面を這う。 目の前の、顔。 「あんたいいね。湿ってる」 眩暈がした。 私の街の冬の空は、甘いアイスクリームの様な色だ。 バニラの匂う、濃い白色。 真冬の空。 湿った空気。 バニラの人達。 甘い甘い、眩暈がしそうな甘い冬。 この街ではありえない。 水分と匂い。 けれど何故だろう。 目の前の赤いマフラーのこの人は、少しだけバニラが香る。 香水の様に。 「私多分あんたを待ってた」 立ち上がる。 咥え煙草で笑って、サングラスをした。 長い手足と茶色い髪。 長いマフラーの先がふたつ、空を切った。 冬の空はバニラ色。 懐かしい残り香に、甘く溶ける。 漂うそれは眩暈がする程。 色褪せた青に、よく映えた。 |